さてさて、レビューも調子よく第3段となりました。
 今回紹介するのは、水曜どうでしょう、というテレビ番組でございます。
 いまさら僕が紹介するのもおこがましいですが、東海エリアではまだ放送されていないので、ついでに紹介といきます。

 この番組、もともとは'96年に北海道のローカルテレビ局から始まった、30分の深夜番組です。
 会社からは大して期待もされず、出演者たった2人。ディレクターもたった2人でひっそりと始まったこの番組。しかしこれが後に日本のほぼ半分の地域で放送されるようになっていくのです。

 そして、ローカル番組と言えばその地域に密着した番組内容というのが常ですが、ここで企画発案者兼出演者である鈴井貴之氏はこう考えるのです。
「とにかく北海道から出よう」
 でもって、限りなく馬鹿馬鹿しいことをしてみよう、と。
 そんなわけで、予算のほとんどは旅の資金に回し、カメラは家庭用のデジタルカメラのみ。同行スタッフもディレクターが2人(うち1人がカメラマン)というギリギリな環境で番組はスタートしました。

 さて、たった2人という絢爛豪華な出演陣。その紹介もしていきます。ローカルタレントとはいえ、あなどれんのです。

 まず、先にも挙げた企画発案者にして『ミスターどうでしょう』の異名を持つ鈴井貴之氏。通称ミスター。
 いつも馬鹿馬鹿しくてその割に過酷な企画を発案し、ロケ中に自分で発案しといていきなりやる気をなくしたりする人です。
 酒好きの辛党なはずが、番組内では『甘党』というイメージをつけられ、日本中の名産物(甘味物)をたらふく食わされ生き地獄を味わう姿はいつ見てもすがすがしく、さらに痛々しい。
 しかし最近では監督を務め、映画作製に力を入れていたりと、ただのダメ人間ではありません。ついでに言うと、社長です。事務所の。

 そして水曜どうでしょうの名物タレント(そもそも2人だ)大泉洋氏。
 番組が始まってからこの方、いつもいつも企画内容を知らされずに呼ばれている人です。
 一番酷いのは、海外行くぞ、と言われ短パンTシャツで来てみたら、行き先は北欧、それも北極圏突入という自殺行為にも等しい企画を告げられ、そのまま連行されてしまいました。
 ラジオの生放送中にも拉致られ、はたまた嘘の企画を教えられたと思ったら、そのまま東京まで連れて行かれたり、と、とにかくその騙されっぷりはいっそ爽快です。
 そんな大泉洋氏も、ミスターと同じくただのローカルタレントではありません。
 ミスターが製作する映画『マンホール』に出演、新作『river』では主演を務め、さらにスタジオジブリ製作『千と千尋の神隠し』『猫の恩がえし』に声優出演、『茄子・アンダルシアの夏』では主役に選ばれるなど、マルチな活躍を見せる・・・けど北海道に根付いたローカルタレントなのです。

 そしてこの番組、タレントは2人なのに、主演はなぜか3人います。
 その正体は同行ディレクターの藤村氏。ディレクターなのに、なぜかカメラが回っててもしゃべりまくります。
 番組内では、超絶甘党にして驚異の早食いを誇ることから魔神の異名を取り、笑い声もリアクションもタレントを凌ぐという暴れっぷり。
 でもディレクターなので、基本的にカメラの前には姿を現さず、常に声のみで出演しています。

 さらにもう1人、準レギュラー的なミスターの事務所に所属する安井顕氏。番組内ではHTB(テレビ局)のマスコット『onちゃん』として、常に着ぐるみのなかで参加していました。
 その後、着ぐるみなしの出演も増え、どうでしょうに欠かせない脇役的な存在へと変わっていっています。


 出演陣紹介だけでえらい書いてしまった気もしますが、続いて本編へ。

「北海道から出て、馬鹿馬鹿しいことをしよう」というミスターの考えの通り、北海道から飛び出たどうでしょう班。
 始めたのは、当時まだ大学生でもあった大泉洋を東京へ連れ出し、「さあ札幌へ帰ろう」と言いつつ取り出したのはサイコロキャラメル。
 企画内容とは、その場で乗れる公共機関を6つピックアップし、サイコロを振って出た目に従い移動するというとても無駄な企画。
 当然、番組的には真っ直ぐ札幌に帰っても面白くないので、まったく正反対の九州なども用意されている地獄のルール。しかも時間の許す限り、札幌に帰れるまでサイコロを振り続けなければならないという無駄に過酷な内容。

 この番組の特色として、一応旅番組であるはずなのに、まったくもって旅番組らしくない、というのが挙げられます。
 さらに、その画面が果てしなく地味。放送されているのは移動中と、サイコロを振るところだけ。目的地に着いたら即座にサイコロを振り、また移動なので、日本中を周っているくせにカメラに映るのはいつも駅と、一体なんのために旅してるの? といいたくなる。
 あまつさえ、あらゆる移動機関を利用し、宿泊施設なども使えず夜は深夜バスで寝ても移動と安らぎを与えられない情況に、各地を巡ってもこぼれるのは愚痴のオンパレード。
 日本各地に対して毒を吐き、なんにもねぇ、二度と来るか、もう嫌だ、札幌に帰りたい、とこき下ろす様は、向かうところ敵なしではある。
 北海道とは逆方向である九州、四国に至っては、福岡が不幸、四国が地獄に聞こえるほどの嫌いっぷり。九州、四国民が見たら何言われるか分かったもんじゃないセリフもビシバシ言ってます。

 はっきり言って、この番組は何がおもしろいのかよく分かりません。
 先にも書いたように、とにかく地味。旅をしているのに各地の見所なし。名産物も甘味物が嫌いなミスターが死ぬほど食って辛い表情。その他の名産も食うには食うが、ものの5秒で終了。
 海外にも足を伸ばすが、やることといったらもっぱら走破。
 オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカと言った国々を、ただひたすらレンタカーで走破するという意味があるんだかないんだがという企画では、基本的に車中の様子しか放送されず、各地見どころなどは飛ばす飛ばす。
 オーロラを見にアラスカまで行ったのに、もう疲れちゃってオーロラなんてどうでもよくなり、最後は自作トランプで遊んで終了、そんなことばっかりやってます。

 馬鹿馬鹿しくて無謀で誰が望んだんだかわかりゃしない旅に行き、辛い思いをしながら愚痴をこぼしケンカまでして、もう二度とやるかと言いながら、また過酷な旅へと向かう彼ら。
 デジタルカメラで撮影という状況から、番組と言うよりはサークルなんじゃないかとすら思えるのに、どこかおもしろい。
 それはたぶん、6年ものあいだ、そんな馬鹿馬鹿しいことを週末になるといつもやっている彼らを見ていると、どこかうらやましく感じれるからかもしれない。
 僕らにとって旅とは貴重な時間と経験であり、可能な限り楽しくありたいと願う。しかし彼らは(特に大泉洋は)行きたくもないのに列車に乗り、楽しみたいわけでもないのに札幌とは逆方向へとひた走り、辛い思いをして帰ってきている。
 考えようによってはとても贅沢な旅を彼らはしている。その姿を見ると、なぜか憧れたりしてしまう。

 まあ、実際に毎週やれって言われたら嫌なんだけど。


 たった4人で日本各地、さらには世界中へと飛び回り、罵りあいながらも旅を続けるという姿に、なにか感慨深いものを与えるどうでしょうは、そこらの金をかけたバラエティ番組より、よほどおもしろい、と僕は思うのです。
 現在は水曜どうでしょうは休止中。しかしそれは、一生どうでしょうをしていくためのちょっとした補充期間であり、この「一生どうでしょうします」という意気込みと、誰かがもう嫌だって言っても「行くぞ!」と連れまわしてやろうという気合の表れに、僕は感服する次第であるのです。

 そんなどうでしょうも、ついに東海地区での放送が決まりました。
 10/20(月)深夜1時18分から、名古屋テレビで放送開始されます。
 放送されるのは『どうでしょうリターンズ』という『水曜どうでしょう』の主に旅企画を中心とした内容を再度放送するといった、用はリサイクル番組です。
 第1回サイコロの旅から放送されるので、東海地区の人は是非見ましょう。そして飽きれ返りましょう。
「この人たちはなんのためにこんなことしてるんだろう」と。



 水曜どうでしょう公式サイト(現在放送されている地区も確認できます)

 ミスター鈴井氏の事務所 Office CUE